対談

INTERVIEW

賃貸物件を所有し、事業として賃貸経営に取り組む「大家さん」にとって、賃貸併用住宅はどのような位置づけなのでしょうか。

今回は、日本最大級の賃貸経営コミュニティ「大家さん学びの会」代表であり、ご自身もアパートや戸建て物件などの経営を手がける水澤オーナーをゲストにお迎えして、賃貸併用住宅の利点と経営上のポイント、業界の現状などを、沖村社長とざっくばらんにお話していただきました。

水澤 健一(みずさわ けんいち)さん

株式会社学びの会 / 大家さん学びの会代表

IT企業で会社員として働きながら、賃貸経営をスタート。2014年からは専業大家としてアパートや戸建て物件などの所有棟数を拡大。2004年に「大家さん学びの会」を発足し、全国8拠点で大家さんに対して幅広いサポートを行っている。

 

沖村 鋼郎(おきむら てつお)

SHiTEN株式会社 代表取締役

長年不動産売買を手掛ける中で、住宅ローンの支払いに困り、わずか数年でマイホームを手放さざるを得ない多くの人を見てきたことで、家が働いてくれる賃貸併用住宅「はたらくおうち」を考案。土地の仕入れから建築、賃貸管理までをワンストップで行っている。

大家さんによる、大家さんのための会

——おふたりが出会ったきっかけと、第一印象を教えてください。

水澤:共通の知人の紹介ですよね。「大家さん学びの会」に参加していただきました。

沖村:そうでした。素晴らしい会があるので行きませんかと言われて。実際に参加して水澤さんに会うまでは、実はちょっと、大家さんの会というものにうさんくさいイメージを持っていました。

これまでいろいろな集まりに行ったのですが、裏では不動産会社が参加していて、賃貸経営の初心者を勧誘するようなものもあって……。でも、水澤さんが主催する会はぜんぜん違いましたね。大家さんによる、大家さんのための会だと思いました。

水澤:ありがとうございます。沖村社長とはじめてお会いした際の私の印象は、とても気さくな方で、もっといろいろとお話をしてみたいなと思いました。賃貸併用住宅を専業にされているという点に興味深さも感じましたし。

——興味深いというのは、どういう意味でしょうか。

水澤:賃貸併用住宅って、探している方は結構いらっしゃるんですけど、無いんですよ。中古でもほとんど流通していなくて、立地と建物の両方が条件に合うっていう物件がまず無い。

じゃあ土地から探して建てるとなると、やっぱり相当な費用がかかる。だから、難しいなぁってずっと思っていたんです。

どうして賃貸併用「専門」会社に?

——沖村社長は、どうしてこの事業「はたらくおうち」を立ち上げたのですか?

沖村:もともとは不動産会社に勤めて、新築戸建ての仲介をやっていたんです。そこで最初に気付いたのが、築年数が浅いうちに売りに出す人がずいぶんいるなということでした。

中身をよく見てみると、やっぱりローン返済が苦しくなるパターンが非常に多くて。人って、自分の年収よりちょっと背伸びというか、グレードの高いものを見ると欲しくなってしまうんですよ。それでギリギリいっぱいのところでローンを組んじゃうんです。

そういう無理な売り方のせいもありますし、勤めていても減給とかリストラとか、生活費や教育費が上がったりとかいろんな理由で、ローンが払えなくなってしまうことがあるんですよね。

どうしたらそんな事態にならずに済むだろう?と考えて、たどり着いたのが賃貸併用住宅でした。家賃収入でローンを補填できるから、一時的に収入が減ったとしても家は売らずに済むということで。

水澤:私も住宅ローンを組んでいたことがありますが、会社を辞めて独立したばかりの頃に、支払いが辛いなっていうタイミングがありました。もう返済しましたけど、確かに、あの頃にローンの一部を賃料から補填ができたらストレスがかからなかったと思いますね。

賃貸併用住宅を建てる難しさ

——「大家さん学びの会」の会員にも、賃貸併用住宅の方は一定数いらっしゃいますか?

水澤:そうですね、チャンスがあれば探している方は多いです。でも、最初にお話したように、いい中古物件がなかなか無いのが現状です。また、自分で建てても『もうちょっと自分たちが住むスペースを広くすればよかった』などと後悔している方もいらっしゃいますね。

普通の家でも3回建てないと満足いくものができないっていうじゃないですか。賃貸併用住宅って、自分だけの知見で建てるとなると、さらに難易度が高い気がします。

沖村:賃貸併用住宅が売りに出ているということは、想定した賃料収入が得られないなど賃貸経営がうまくいっていないということも多い。売りに出ている時点でなんらかの問題をかかえている場合がほとんどですね。

水澤:そうですよね。賃貸でトラブルが多いのが音の問題で、普通の戸建てを中心に建てている工務店さんにお願いしても、床の遮音性ってそこまで高められないんですよ。コストの問題もあるし、なによりも賃貸住宅の特性というものがわかっていないことが多い。

その点、御社は管理部門も持ち合わせていて、賃貸物件のトラブルを知りつくしているから、音が伝わりづらい設計や、床の遮音性をかなり重視されていると聞いて、いいなと思ったんです。

賃貸経営を成功させるポイントとは?

——賃貸併用住宅の立地において、土地の仕入れでこだわっているのはどんな点ですか?

沖村:もちろん駅から近いなど、良い立地であることが絶対なのですが、そういう土地って地価も高いですよね。でも、地価と賃貸の家賃って必ずしも比例しないんです。

地価が倍だからといって家賃が倍になることはないし、半分だからといって半分にもならない。そのギャップがある土地は必ずあって、そう言う土地は掘り出し物だと思います。だから、ちょうどいい塩梅の土地を見つけるのがこだわりですかね。

——入居者さんに長く住んでもらうためのポイントなどはありますか?

沖村:管理が最も重要です。うちでは入居者さんへのヒアリングを徹底して、解約につながる不満などを積極的に改善するようにしています。そうすることで解約率を大幅に減らせることができました。

水澤:本来管理会社には、入退去時にリフォーム代金やオーナー側から入居者を見つけたことへの対価として募集手数料などが入りますからね。私たちとしては大きな出費です。だから、入れ替わりは少ない方が助かります。

沖村:そうですよね。オーナーと管理会社が利益相反状態になっているんですね。だから、うちは退去抑制に努めることにしました。入退去では儲からないから、オーナーと同じ目線で、入居者さんに長く居てもらいたいという管理方法になります。クレームやトラブルに対処するスピードも速いと自負しています。

水澤:これは併用住宅に限らず、賃貸オーナーにとって大きなメリットです。入退去によってできる空室期間が利回りに与えるダメージって、実はかなりありますから。

管理会社として、どうあるべきか

——管理会社とオーナーの利益相反の話が出ていましたが、ほかにも問題があるとしたら何でしょうか。

沖村:例えばハウスメーカーで賃貸併用住宅を建てるとすると、管理や原状回復、リフォーム、大規模修繕工事などは系列会社が行うのが一般的ですよね。このコストがすごく高いと感じます。

水澤:高いですよね~!うちも自宅はハウスメーカーで建てたんですけど、大がかりな修繕工事は別の会社にお願いしました。

系列会社で修繕すると保証期間が伸びますって言われましたけど、足場立ててなんだかんだって、結構スゴイ金額の見積もりがきまして。建築費も高いのに、なんだか搾取され続けているような気がしちゃって。

沖村:確かに、何も知らないと従わざるをえないのかもしれないですけど。保証が切れますよって言われて、何百万円もかけてまた直して……。

でも、それじゃあ土地を探した不動産会社も、建てた会社も、その子会社の管理会社も、賃貸オーナーの資産形成というコミットに向かっていないんですよね。

水澤:あと、管理会社の担当者さんについては、ちょっと疲弊している印象も受けますよね。1人あたり何百室も担当しているわけですから、もうクレームとかトラブルは極力避けたいという姿勢が管理に表れてしまう。これは業界全体の問題かもしれませんね。

賃貸併用住宅は住みづらい?

——賃貸併用住宅の住み心地はいかがでしょう?入居者さんと同居することになりますが……。

沖村:私も実際、自宅+賃貸3室の併用住宅に住んでいますが、住んでみると全く気にならないですね。入居者さんとは、たまに玄関前で顔を合わせるくらいですかね。動線の工夫もあると思います。

水澤:沖村さんのところは、玄関ドアが同じ仕様になっているんですよね。これがいかにも賃貸仕様という感じでなく、注文住宅の戸建てと同じような玄関扉で。玄関外のランプなども非常にオシャレで、各戸に付いています。

沖村:うちはあえて同じ仕様にしているんです。だから入居者さんもオーナー宅と気付いてないかもしれないですね。

もちろん、塀で庭が囲まれているような一軒家で、知らない人と同居するのは抵抗があると思います。でも、都心の家ってアプローチがパブリックな場所で、他の人が通っても気にならない。これは実際に現場を見てもらえば分かっていただけます。

水澤:御社では転貸借方式(管理会社がオーナーから部屋を借り上げて、それを第三者に貸し出す方式)を採用しているんですよね。それも入居者にオーナーだと気付かれにくい理由かもしれないですね。

賃貸併用オーナーから専業大家への転身は可能?

——「はたらくおうち」を建てた方で、そのあと不動産投資に目覚めた方はいらっしゃるんですか?

沖村:いますねぇ。もう、メガ大家さんになってる方もいらっしゃいますよ。アパートを何棟か購入して。賃貸併用住宅で賃貸経営をスタートできれば、ローリスクですから。住宅ローンで借りられて、金利も安いですしね。

水澤:普通に賃貸物件を建てるには、アパートローンかプロパーローンを組むことになりますからね。建てる物件の収益性や持っている資産によって違いますが、安くていま2%くらいですかね。中古購入だともっと高い。

沖村:それに比べると、やはり住宅ローンはまだ低金利の時代が続いています。最近は少し上がってきているとはいえ、1%未満で借りられますし、返済期間も長く設定できます。※

水澤:もしゼロから賃貸経営をはじめたいという方は、賃貸併用住宅から入るのがリスクが低いと思います。自宅として住みながら、全額とはいえなくても収益も得て、返済の負担はかなり減りますから。

賃貸部分に関しては減価償却費にもできますしね。そのあたり、オーナーにとってけっこう勉強になるんじゃないかな。確定申告も自分でしないといけないので。

※ローンの融資条件は融資を受ける人の年齢や年収、勤続年数などによって異なります。また、賃貸併用住宅に住宅ローンを適用するには「自宅部分の床面積が50%以上であること」等の要件があります。

効率的な資産形成に向けて

——今後の展望はいかがですか。

沖村:わが家のような賃貸部分が3世帯といった規模ではなく、賃貸1世帯のコンパクトな併用住宅を若い人向けにつくっていきたいと考えています。

水澤:賃貸併用住宅なら、ローンのボリュームを下げることができますからね。注文住宅で建てれば自分たちだけの理想の家が手に入るけど、住宅ローン返済のリスクが精神的な負担にもなる。また、投資に興味はあっても、資金面での不安がある。

そこで、自宅が欲しいというニーズとこれから不動産投資を始めたいというニーズのふたつをうまく合わせて、自分が満足できる家に住みながら、かつ返済のストレスを軽減できる。これが賃貸併用住宅のメリットですね。

沖村:効率的な資産形成をしつつ、差額を投資に回すこともできます。そしたら、アパート経営など次のステップに進めるかもしれないですしね。本格的な賃貸経営となったら、もちろん勉強していただくことは多いですけれど。

水澤:その時はぜひ、「大家さん学びの会」に参加していただければ。

沖村:確かにそうですね。賃貸管理の大変さも分かっていただけると思います(笑)。

——水澤オーナー、本日はありがとうございました!